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大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)115号 判決

大阪府八尾市南小阪合町三丁目四番一六号

(送達場所 大阪市浪速区元町一丁目二番二号 浪芳ビル七階)

原告

密門光昭

大阪府八尾市高美町三丁目二番二九号

被告

八尾税務署長 宮崎雄次

右指定代理人

河合裕行

西浦康文

田中康生

小田正典

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の平成三年分の所得税について平成七年二月二七日付けでした更正処分のうち納付すべき税額八六万七五〇〇円を超える及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、弁護士業を営むいわゆる白色申告者である。

2  原告の平成三年分の所得税の申告等とこれに対する課税処分等の経緯は、別表記載のとおりである。すなわち、

(一) 原告は、平成三年分の所得税について、法定申告期限内である平成四年三月一二日、被告に対し、同表〈1〉欄記載のとおりの確定申告をし(以下「本件確定申告」という。)、同年一一月二〇日、同表〈2〉欄記載のとおりの修正申告をした(以下「本件修正申告」という。)。

(二) これに対し、被告は、平成七年二月二七日付けで、同表〈3〉欄記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下併せて「本件課税処分」という。)をした。

(三) 原告は、右処分を不服として、同年三月三一日付けで、被告に対し異議申立てをしたが、被告は、同年六月三〇日付けで、これを棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、同年七月一九日付けで、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、平成八年六月一二日付けで、これを棄却する旨の裁決をした。

3  しかし、本件課税処分は、所得税法(以下「法」という。)三六条等の解釈を誤った違法なものである。よって、原告は、本件課税処分のうち納付すべき課税八六万七五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の各事実は認めるが、3の主張は争う。

三  被告の主張(本件課税処分の適法性)

1  原告の平成三年分の事業所得について

(一) 原告は、平成三年分のの事業所得について、本件確定申告及び修正申告において、次のとおり申告した。

(1) 総収入金額 二五二三万四一七七円

(2) 必要経費 一五八四万九六九二円

(3) 事業所得金額 九三八万四四八五円

(二) 右(一)(1)の収入金額の他に、次の収入が加算されるべきである。

(1) 関西地質調査業協会からの収入 一三万二〇〇〇円

(2) 原告が的場幾子から取得した西宮市若草町一丁目九番所在の土地三〇七平方メートル(以下「本件土地」という。)に係る弁護士報酬 一億七三九〇万七二〇五円

2  右1(二)(2)の弁護士報酬が加算されるべき理由は、次のとおりである。

(一) 原告は、昭和六一年ころ、的場幾子、的場恒夫、的場知子、的場玉恵及び粟津信子(以下「的場ら」という。)から、本件土地を含む同人ら所有の西宮市若草町及び同市甲子園町の土地合計約四一八九平方メートル(以下「係争土地」という。)の明渡しに関し、同人らと同土地の耕作人らとの間で生じていた紛争(以下「本件紛争」という。)の解決を依頼され、これを受任した(以下「本件事務」という。)。

(二) 原告は、的場らの代理人として本件紛争の解決に当たり、尼崎簡易裁判所における調停に関わるなどしたが、昭和六二年九月九日、右調停は不調に終わった。そこで、原告は、同年一〇月七日、神戸地方裁判所尼崎支部に、係争土地の明渡しを求める訴訟を提起、追行し、勝訴判決を得たが、耕作人らが控訴したため、さらに大阪高等裁判所における右訴訟の控訴審においても的場らの代理人として訴訟追行に当たったところ、平成二年一〇月二日、同裁判所において和解が成立した。しかし、その後紛争が再燃したため、原告は再度その解決に当たり、その結果、平成三年一〇月ころ、本件紛争はすべて円満に解決し、原告は、本件事務を終了した。

(三) 原告は、平成三年一二月二四日、的場幾子(以下「幾子」という。)との間で、本件土地を代金四〇〇〇万円で買い受ける旨の売買契約書(甲七)を取り交わし、同日、幾子に対し、額面四〇〇〇万円の小切手を交付した。

本件土地は市街化区域内の農地であったため、原告は、平成三年一一月一五日、西宮農業委員会に対し、農地等の転用のための権利移動の届出をし、同年一二月二四日ころ、同日付けの右届出書の受理通知(同月一七日届出効力発生)を受領した。

なお、原告は、本件土地を取得後、二三一万七五〇〇円の費用をかけてこれを宅地造成した。

(四) 本件土地の価額は、平成三年一二月二四日当時二億円を超えていたから、右価額から原告が支出した前記四〇〇〇万円を控除した差額相当額は、原告が同年一〇月ころに終了した本件事務の報酬として、的場らから取得したものというべきである。すなわち、

(1) その年分の各種所得の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、金銭に限らず金銭以外の物又は権利その他経済的利益も含め、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とされている(法三六条一項)。そして、金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該権利を享受する時における価額とされている(法三六条二項)。

(2) 前記(三)記載の事実経過からすると、原告は、本件土地を平成三年一二月二四日に取得したものというべきところ、その時点における本件土地の価額は、二億一三九〇万七二〇五円であった。

すなわち、西宮市甲子園一番町一三四番六の土地は、本件土地の近隣に所在し、本件土地と同一形状の整形地である上、平成三年一月一日時点及び平成四年一月一日時点における路線価が本件土地と同額であり、両土地の評価を異にする特段の事情もないことから、本件土地の評価については、右一番町の土地の公示価額を基礎にして算定した。右一番町の土地の一平方メートル当たりの公示価格は、平成三年一月一日時点で九二万五〇〇〇円、平成四年一月一日時点で七〇万円であるところ、別紙のとおり、右公示価額に時点修正を加えて計算すると、本件土地の平成三年一二月二四日時点における価額は一平方メートル当たり七〇万四三一五円となる。そして、これに本件土地の面積三〇七平方メートルを乗じると二億一六二二万四七〇五円となり、これから原告が本件土地を宅地造成するに要した費用二三一万七五〇〇円(前記(三))を控訴した二億一三九〇円七二〇五円が、本件土地の平成三年一二月二四日の時点における価額である。

(3) そして、前記(三)記載のとおり、原告は、本件土地を取得するに当たり、幾子に対し四〇〇〇万円を支払っているので、原告が本件事務の報酬として取得した価額は、右(2)の価額から四〇〇〇万円を控除した一億七三九〇万七二〇五円となる(所得税法基本通達(昭和四五年七月一日直審(所)三〇、以下「基本通達」という。)三六-一五(1))。

(4) なお、基本通達三六-八(5)によると、人的役務の提供による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日が収入金額を形状すべき時期とされているところ、前記(二)で摘示したとおり、原告は平成三年一〇月ころに本件事務を完了したものであるから、右(3)の収入金額は平成三年分に帰属することになる。

3  以上に基づく原告の総所得金額及び納付すべき税額

(一) 事業所得に係る総収入金額

前記1(一)(1)に(二)(2)(1)、(2)を合計すると一億九九二七万三三八二円となるところ、原告の平成二年分の事業所得として計上されていた一六〇〇万円が未収となっているため、これを控除すると、原告の平成三年分の事業所得に係る総収入金額は一億八三二七万三三八二円となる。

(二) 総所得金額

必要経費は、前記1(一)(2)記載のとおり一五八四万九六九二円であるから、原告の平成三年分の総所得金額は、右の総収入金額から右必要経費を控除した一億六七四二万三六九〇円となる。

(三) 所得控除額

本件課税処分前の原告申告に係る所得控除額は合計三一三万二〇〇〇円であり、これには配偶者特別控除として三五万円が含まれていたところ、原告の総所得金額は右のとおり一〇〇〇万円を超えるため、法八三条の二第二項により配偶者特別控除をすることはできないから、原告の所得控除額は、三一三万二〇〇〇円から三五万円を減じた二七八万二〇〇〇円となる。

(四) 納付すべき税額

原告の平成三年分の所得税の額は、(二)の総所得金額一億六七四二万三六九〇円から(三)の所得控除額二七八万二〇〇〇円を差し引いた課税総所得金額一億六四六四万一〇〇〇円(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数金額を切り捨てた金額)に、法八九条の定める税率一〇〇分の五〇を乗じて計算した金額から税額控除額三九〇万円を控除した七八四二万〇五〇〇円であるところ、源泉徴収税額一四万七六六〇円(本件更正前の源泉徴収税額一三万五六六〇円及び関西地質調査業協会の報酬に係る源泉徴収税額一万二〇〇〇円の合計)があるので、これを控除した七八二七万二八〇〇円(通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数金額を切り捨てた金額)が、原告が納付すべき税額となる。

4  過少申告加算税 一一五七万四〇〇〇円

(一) 通則法六五条一項の税額 七七四万三〇〇〇円

原告は、本件確定申告書を法定期限内に提出していたので、前記3(四)の納付すべき税額七八二七万二〇〇円と本件修正申告においての納付すべき税額八三万九九〇〇円との差額である七七四三万円(通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額)に一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額七七四万三〇〇〇円が通則法六五条一項の税額である。

(二) 通則法六五条二項の加重額 三八一万一〇〇〇円

前記3(四)の納付すべき税額と本件修正申告において納付すべき税額との差額七七四三万二九〇〇円に、本件確定申告と本件修正申告との累積増差税額八万八八〇〇円を加算した金額七七五二万一七〇〇円のうち、期限内申告税額八九万八七六〇円(本件確定申告における納付すべき税額二六万二五〇〇円、前記3(四)の源泉徴収税額一四万七六六〇円及び予定納税額四八万八六〇〇円の合計額)を超える七六六二万円(通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額)に、一〇〇分の五を乗じて計算した金額三八一万一〇〇〇円が、通則法六五条二項による加算額である。

5  以上のとおりであるから、右3の総所得金額及び納付すべき税額、4の過少申告加算税額の範囲内でなされた本件課税処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の主張

1  認否

(一) 被告の主張1の事実のうち、(一)(1)、(2)、(3)、(二)(1)の事実は認めるが、(二)(2)は否認する。

(二) 同2のうち、次の事実は認めるが、その余の事実は認否し、主張は争う。

(一)、(二)の事実

(三)の事実のうち、売買契約書取交しの時期及び農地転用等のための権利移動の届出の時期を除くその余の事実

(三) 同3、4、5の主張は争う。

2  主張

(一) 原告は、平成四年一月二二日に本件土地(農地)を幾子から代金四〇〇〇万円で買い受けたものである(甲七)。本件土地は市街化区域内の農地であったから、農地法五条に基づく農業委員会への権利移動の届出を要するところ、原告は、右一月二二日付けで右届出の受理通知を得たので、同日売買契約を締結したものである。

(二) 原告は、本件紛争が解決したのに伴い、その記念として係争土地の一部である本件土地を四〇〇〇万円で買い受けたにすぎず、的場らとの間でこれを弁護士報酬とすることを合意したことはない。弁護士報酬額は、当事者の合意によって決定するものであって、被告にこれを一方的に決定する権限はない。また、土地の評価益は、金銭ではなく、不確定な性質を有しており、弁護士報酬とは性質を全く異にする。

(三) 所得税は金銭収入に対して課税されるものであって、法九条一項一五号において、土地の取得に対しては所得税は課さないとされており、法三六条の「経済的利益」についても、土地の評価益は除外されている。

(四) 前記(一)で主張したとおり、原告は、平成四年一月二二日に本件土地の所有権を取得したものであるから、これを平成三年分の所得として計上すべきではない。また、被告主張のように、役務の提供を完了した日を基準とすべきものとするならば、本件事務は、平成二年一〇月の和解成立により終了しているから、平成二年分の所得となる筈である。

(五) 原告は、被告から再三にわたって本件税金の納付を迫られたため、やむなく平成七年七月に本件土地を売却したところ、その代金は九七五〇万円にしかならなかった。したがって、被告の評価した本件土地の価額(前記三2(四)(2))は、事実の価値と大きく乖離した不当な額である。

(六) また、本件土地の売却による原告の実際の収入額は、右売却価格から本件土地の取得代金、必要経費等を控除した約四四〇〇万円であるのに対して、本件土地の取得に関して原告に課された所得税及び地方税の合計は約一億三〇〇〇万円にのぼるのであって、このような不当な結果をもたらす本件課税処分は、憲法二九条(財産権の保障)に違反する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実、被告の主張1の事実のうち(一)(1)、(2)、(3)、(二)(1)の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件の争点は、被告の主張1(二)(2)の点、すなわち、本件土地の取得に係る弁護士報酬一億七三九〇万七二〇五円を平成三年分の原告の収入として加算できるかどうかである。そこで、被告の主張2について判断する。

1  当事者間に争いがない事実に、成立に争いのない甲第二、第四、第六号証、乙第一ないし第四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第七号証を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和六一年ころ、的場らから依頼された本件紛争の解決を受任し、被告の主張2(二)摘示のの経緯を経て、平成二年一〇月二日、大阪高等裁判所において、係争土地の耕作人らに対し合計約一億二六〇〇万円の明渡料を支払う旨の和解が成立したが、その後土地明渡しの段階で紛争が再燃し、原告が再度その解決に当たった結果、平成三年一〇月ころ、係争はすべて解決した。

(二)  原告は、本件事務に関して、的場らに対し、金銭による報酬は一切請求せず、本件紛争が解決に近づいたころ、係争土地の一部を譲り受けたい旨申し入れたところ、的場らはこれを了承し、幾子所有名義の本件土地(市街化区域内の農地)を時価より低額の四〇〇〇万円で原告に譲渡することとした。

(三)  そして、原告と幾子は、平成三年一一月一五日、西宮市農業委員会に対して農地等の転用のための権利移動の届出をし、同年一二月二四日、右届出書の受理通知(同月一七日届出効力発生)を受領したので、同日、本件土地の売買契約書(甲七。ただし、日付訂正前のもの)を取り交わし、その代金の支払として四〇〇〇万円の小切手を授受した。

(四)  その後、原告と幾子は、本件土地の譲受人に原告の妻を加え原告との共有名義とするためとして、同農業委員会に対し、同月二七日付けで、右(三)の届出の取消し願い書及び譲受人を原告及びその妻とする新たな権利移動届出書を提出したところ、同農業委員会は、平成四年一月二二日、原告らに対し、改めて右届書の受理通知(甲六、同月一六日届出効力発生)を交付した。

(五)  そこで、原告と幾子は、前記売買契約書(甲七)の作成日付を「平成四年一月二二日」と訂正した上、買主欄に原告の妻の名前を書き加えた。そして、原告らは、同日付けの売買を原因とする幾子から原告及び妻への所有権移転登記手続を翌一月二三日に経由した。その後、原告は、二三一万七五〇〇万円の費用をかけて本件土地を造成した。

(六)  平成三年一二月二四日の時点における本件土地の価額は、被告の主張2(四)(2)記載のとおり、近隣地の公示価格を基礎にして算定すると、二億一三九〇万七二〇五円となる(乙一)。

2  右の認定事実によれば、原告は本件土地平成三年一二月二四日に取得したものというべきところ、右の時点における本件土地の価額と原告の支払額四〇〇〇万円との差額一億七三九〇万七二〇五円については、被告主張のとおり、本件事務に対する対価、すなわち弁護士報酬として授受されたものと推認するのが相当である。

そして、人的役務の提供による収入金額については、その提供完了の日をもって収入金額の計上時期とされているところ(基本通達三六-八(5))、前記1(一)で認定したとおり、本件紛争は平成三年一〇月ころをもってすべて解決し、原告の本件事務はそのころ完了したというのであるから、本件土地の取得に係る原告の収入(弁護士報酬)は、平成三年分の収入となる。

3  原告の主張について

(一)  原告は、本件土地の取得時期を平成四年一月二二日と主張し(原告の主張(一))、また、的場らとの間で本件土地を弁護士報酬とすることを合意したことはないなどと主張する(同(二))けれども、前記1(一)ないし(五)で認定した事実経過に照らすと、右の主張はいずれも採用することができない。

(二)  原告は、所得税は、金銭収入に対して課税されるものであって、土地の取得に対して課されないと主張するが(原告の主張(三))、所得税法上の所得につき、これを金銭に限定せず、「金銭以外の物又は権利その他経済的利益」も含まれることは、法三六条一項からも明らかである。そして、土地の評価益は、右にいう経済的利益に該当し、本件土地の価額と支払額との差額は、基本通達三六-一五(1)にいう「物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益」に該当するものと解されるのであって、基本通達三六-一八以下は、法三六条一項にいう経済的利益をこれら掲記のものに限定する趣旨ではない。

また、原告は、土地の低額譲受は相続税法七条により贈与とみなされ、法九条一項一五号において所得税は課されないとされている旨主張するが(同)、相続税法にいう贈与とは、当事者の一方が財産を無償で与える片務の契約をいい、同法七条も、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、すなわち当該対価の他に対価を支払うことなく、実質上無償による譲受と評価すべき場合をいうものと解すべきであるところ、前記2で認定したとおり、本件の場合、本件土地は本件事務の報酬の意味で原告に安価で譲渡されたものであって、本件土地の時価と支払額との差額は、本件事務の対価たる性質を有するものであるから、相続法七条とは場合を異にする。

したがって、原告の右主張はいずれも理由がない。

(三)  本件土地の取得に係る収入が平成三年分に帰属しない旨の原告の主張(原告の主張(四))が採用できないことは、前記2の説示に照らして明らかである。

(四)  原告は、被告が評価した本件土地の価額(二億一三九〇万七二〇五円)は、実質の価値との乖離が大きく不当であると主張するところ(同(五))、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一三号証によれば、原告が平成七年七月に本件土地を代金九七五〇万円で他に売却したことが認められる。

しかしながら、法三六条二項は、金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額と定めているから、本件においては、前記2で認定した本件土地の取得時である平成三年一二月二四日をもって右価額算定の基準時とすべきところ、前記1(六)で認定した被告の算定方法は相当であり、その結果算出された右の二億円余の評価額も相当と認められる。右に認定した原告が平成七年七月に本件土地を九七五〇万円で売却したとの事実は、昨今の地価の顕著な下落傾向に照らせば、被告の右評価額の相当性を妨げるものではない。

(五)  また、原告は、本件土地の取得に係る税金の合計額が同土地の売却による実際の収入額を大幅に上回る(約三倍)から、本件課税処分は憲法二九条に違反すると主張する(同(六))。

しかしながら、原告が主張するような事実があるとしても、それは地価の変動(下落)という偶然の出来事によって偶々もたらされた結果であるから、これをもって本件課税処分が違法ということにはならないし、まして、右課税処分が憲法二九条に違反するということはできない。

三  総所得金額及び納付すべき税額について

以上によれば、原告の平成三年分の事業所得の総所得金額は、被告主張のとおり一億六七四二万三六九〇円となるところ(計算関係は、被告主張のとおりである。)、所得控除額が二七八万二〇〇〇円であることは、原告も争わないところである。そうすると、右の差額から端数を切り捨てた一億六四六四万一〇〇〇円が、平成三年分の課税所得金額となり、これに税率一〇〇分の五〇を乗じた金額から三九〇万円を控除した七八四二万〇五〇〇円が所得税の税額となる。そして、これから源泉徴収税額一四万七六六〇円を控除して端数を切り捨てた七八二七万二八〇〇円が、原告が納付すべき税額となる。

四  過少申告加算税について

原告が本件土地の取得等について本件確定申告及び本件修正申告の計算の基礎としていなかったことにつき、正当な理由は認められないから、原告に対して過少申告加算税を課すべきところ、右三の各金額にしたがって計算すると、被告がその主張4で主張するとおり、通則法六五条一項の過少申告加算税の額は七七四万三〇〇〇円、同条二項の加重額は三八一万一〇〇〇円となり、これらの合計は一一五五万四〇〇〇円となる。

五  以上によれば、本件課税処分は適法というべきであって、原告の請求は理由がないから、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 戸田彰子 裁判官 出口尚子)

別表

課税の経緯(所得税)

〈省略〉

別紙

公示地 西宮市甲子園1番町134番6

公示価格

平成3年分 925,000円(平成3年1月1日)

平成4年分 700,000円(平成4年1月1日)

平成3年12月24日の時価の計算

925,000円-(925,000円-700,000円)

×358(1月1日から12月24日までの日数)÷365

=704,315円

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